母親に、生きているはずの自分が死んだと言われ。
子供は、どう思うだろうか。
……永瑠は、どう、思ったのだろうか。
「……それから、姉ちゃん、自分のこと、実瑠兄ちゃんが言ってたみたいに、“オレ”って呼び始めたんだ」
「…………」
「髪型も服装も、全部、実瑠兄ちゃんの通りにして、姉ちゃんは“実瑠”になったんだよ」
……思い出せ。
永瑠が、自分のことを“オレ”と言い始めたのはいつだったか。
長かったはずの永瑠の髪の毛が、短くなったのはいつだったか。
可愛い洋服が好きだった永瑠の服装が、モノクロになったのはいつだったか。
……あまりにも永瑠が自然にそうなったから。
俺は、その変化の奥深くまで、気が付くことができなかったのだ。
……あぁ、だから永瑠は、何度性別を間違われても怒らなかったんだな、と、上手く働かない頭で思った。
「……でもね、姉ちゃんは、“実瑠”になってから、笑わなくなった」
次第にうつむく英璃の肩が、微かに震えだす。
言葉がだんだんと、詰まり始める。
「怒らないし、泣かないし、たまに笑っても抜け殻みたいだし……ホントに、姉ちゃんが死んでるみたいだった……っ」
「……英璃」
「でも、でもさっ……有架兄ちゃんが帰ってきてから、姉ちゃん、いつも楽しそうなんだ……っ」
「…………」
「怒るし、照れるし、笑うし……僕、久しぶりに、姉ちゃんが生きてるの見たんだ……っ」
ポロポロ、と。
うつむいた、英璃の目から涙が落ちる。


