ロリーポップが不機嫌なワケ。





実瑠は川で溺れたのだ。

……あぁ、そういえば。

その時も、俺を呼びに来たのは英璃だった。

部屋で受験勉強をしていた俺の元に、『実瑠兄ちゃんが死んじゃう』と泣きながら走ってきたのは英璃だった。

当時、俺は自分がどうしたのかはあまり覚えていない。

とにかく“助けなければ”とだけ思っていた気がする。

覚えているのは、2人を助けるために川に飛び込んだこと。

川に入って実瑠を助けようとして一緒に溺れかけていた永瑠と、すでに息をしていなかった実瑠を抱えて川から上がったこと。

俺自身死ぬかと思ったことは、なんとなく記憶している。

川岸で、呼吸をしていない実瑠に、俺は授業で習った人工呼吸を必死でやった。

その実瑠の傍らで、意識も朦朧としながら実瑠を呼ぶ永瑠の声と、泣き喚く英璃の声。

今でも思い出そうと思えば、耳に張り付いた2つの声は、鮮明に思い出せた。

救急車のサイレンの音も、人々の好奇の目も、ざわめきも。

抱きかかえた実瑠の冷たさも。

鮮明に、酷く鮮明に――……


「……覚えてる」


呟くようにそう言う。

今では、あの頃の実瑠の年齢をとうに越してしまった、弟の英璃は静かに瞬きをした。


「……夏だったね」

「……あぁ」

「お母さん、あの頃から、夏になるとおかしくなるんだ」

「……知らなかった」