英璃がしっかりと床に足を付けたのを見届けてから、再びドアに視線を向ける。
部屋の中から、微かに話し声のようなものが聞こえてくるのがわかる。
俺は一度、小さく深呼吸をしてから、ドアへと歩み寄った。
中を覗く。
リビングのドアは閉まっていた。
少し離れたところで赤い目をこすっていた英璃を振り返り、聞く。
「……入っていいの」
「……うん。あ、靴は履いたままでいいよ」
「なんで」
「危ないから」
言葉の意味がよくわからず、俺は少し眉根を寄せる。
が、言われた通り靴は脱がずに土足で廊下に上がらせてもらう。
上がって、すぐに意味が分かった。
パキッ
靴底が、何かを踏みつけた。
何を踏みつけたかは、音と、廊下の上に散らばるもので把握した。
ガラスだ。
ガラスの破片だ。
……ひやり、とした。
高温を保ったままの体、その中心が、気持ち悪いほどに、ひんやりと。
息をのみ、透明な破片を踏みつけながら、閉ざされたリビングのドアへと歩みを進める。
目前に迫ったドア、そのノブを握り、回す。
ギッと唸った扉を開くと。
視界を埋めたのは、ガラスの世界だった。


