「バカリカっておいこら」
「有架兄ちゃんが居ねェ間に大変なことになってんだからな!」
「は?」
「姉ちゃんが……っ!」
一度、英璃の言葉が詰まった。
英璃の言う姉ちゃん、つまりは、永瑠。
よく見れば、英璃はめちゃくちゃ汗だくだった。
それほど、この炎天下を走り回って俺を探してたのか。
それほど、英璃が泣きそうな顔になるほどのことが、永瑠にあったのか。
その答えは、英璃が泣くのをこらえて、懸命に伝えてくれた。
「姉ちゃんが……壊れちゃったっ……」
*****
座り込んで泣き始めた英璃を抱えて、炎天下の中俺はマンションへと走った。
英璃抱えてるし暑いしでめちゃくちゃキツかったのは当然で。
でも、この何倍もの距離を走り回った英璃のことを考えると、なんでもないような気がした。
長いような短いような道のりを走り。
目的の部屋がある廊下まで辿り着いて、ようやく足を止めた。
永瑠たちの部屋のドアが、開けっ放しになっている。
そのドアを見つめながら、俺は英璃に問いかける。
「……英璃、立てる?」
こくこくとうなずく気配がしたので、ゆっくりと廊下に英璃を下す。


