俺が蹴り上げた大事な場所を押さえながらもがいている袮夏を無視って、玄関のドアノブを握る。
まあ確かに、今の俺は酷い。
内心ではめちゃくちゃ袮夏に感謝してる。
マジで。
リアルに。
すげー感謝してる。
それを伝えるのが、ちょっと俺には難しいってだけだ。
けど、それを理由にこのまま帰るのはちょっと、いやかなり違う。
かなり間違ってる。
だからせめて。
「……また来るわ」
「……は?」
ドアを開けながら振り返る。
タイミングよく顔を上げた袮夏に、俺は伝える。
「今度は、めちゃくちゃ楽しいバカやりに」
ニヤリと、笑って見せた。
一瞬驚いたような顔をして、けれど袮夏もニヤリと笑った。
「しゃーないなあ。歓迎したるわ」
くそムカツクな。
いいヤツすぎて。
だから俺は、あんなに安心して泣けたんだよ。
サンキュー、袮夏。
お前がお前でよかったぜ。
「じゃあな」と言って、俺は右手を持ち上げた。
「またな」と言って、ヤツも右手を持ち上げた。
ドアを閉め、見上げた空は、すっかり夏色で。
……あぁ、うん、よし。
がんばるか。


