『いいなあ、のんびりできて~』


携帯の向こうで、笑い交じりに七瀬(ななせ)がそう言った。

俺も小さく笑いながら「ンなことねェよ」と返す。


「隣の家にだいぶ年の離れた……まあなんつーか、妹みたいなヤツが居て。そいつに勉強教えるのが大変」

『有架が勉強教えてるの!?うわあ……その姿拝ませて欲しいー」

「なんだとコノヤロウ」

『だってさ、こっちに居る時なんか全然勉強してないじゃん』

「俺は勉強しなくもデキル子だから」

『なにそれー、うざい!』


携帯越しに楽しそうに笑う七瀬は、言わなくてもわかりそうだけど、一応言うと、俺の彼女。

大学入ってから知り合って、約2年の付き合いをしている。

俺は特にすることもなく、夏だし講義ねェし、そうだ、実家に帰ろうってノリでこっちに戻ってきたんだ、けど。


『私もヒマだったら、実家帰りたかったんだけどなあ……』


七瀬はどうやら忙しいらしく、まったく実家に帰る余裕がない様子。

ベランダに出て夜風に涼みながら、俺は残念そうな七瀬へと問いかける。


「俺がそっちで手伝えることなら帰んなかったんだけど、俺にはムリっぽいし」

『うんーそうなんだよー……だってまず学科違うしー』


俺がこっちに戻ってくる前、七瀬に同じようなことを尋ねたんだけど、七瀬も同じように返してきたので諦めた記憶がある。