「……今日、ホントは、有架のお母さんに、そのこと話してきたんだ」

「……うん」

「“家に押しかけてきて、こんな結果で、ごめんなさい”って、言ったら……“いいのよ”って、笑ってくれたの」

「……そ、か」

「うん」


……遠まわしに。

七瀬が、何を言いたいのか、悟った。


「……七瀬」

「うん?」

「日本から離れて、どこ行くんだよ?」

「……遠いよ」

「……そっか」

「フランス」

「遠いね」


……本当に、遠い。

目の前に居るはずの七瀬にさえ、手が届かない気がして。

けれど、手を伸ばして確認しなかったのは、今の俺じゃあ、どうやっても届かないと思ったから。

指の間をすり抜けていってしまいそうなほど。

遠い、遠い。

……果てしなく、遠い。


「……七瀬」


俺は一歩、七瀬から離れて、言った。


「……少し、時間くれ」