“違う”
と言おうとして、けれど七瀬の右手、人差し指が遮った。
伸ばした人差し指を俺の唇に当てたまま、七瀬は首を振った。
「かばってくれなくても、大丈夫。私が火種。わかってますってー。これも女の勘?あ、ちょっと違うかな」
「あはっ」と小さく笑って、人差し指を下す。
どうしてこう、永瑠も七瀬も、“わかってる”とか言うんだ。
……俺は何ひとつ、わかってねェのに。
「……ホントは、来るつもりじゃなかったの」
七瀬の右手は、そのまま力なく揺れ落ちた。
目線も下がり、やはり手元を見つめていて。
「でも、どうしても、来たかったの。断られても、隕石が降っても、地震が起きても。……それでも、どうしても、来たかったの」
なんで、と。
聞けなかったのは、
「……“ここ”を離れる前に、大好きな人に会いたかったから」
答えを、聞きたくなかったからかもしれない。
「……日本を離れる前に、有架に、会いたかったから」
……どうしていつも。


