七瀬は俺の肩を叩く手を止めて、その手を下す。
下りた手は俺の服の裾を軽く握り、七瀬の視線はそこに落ちた。
「……永瑠ちゃんが、泣いて帰ってきたから、さ」
「……うん」
「初めて永瑠ちゃんに会った時から、ピンと来てたんだけどね。女の勘ってヤツかな?そんなのいらないんだけどね、しょうがないよ。私も女子だし、有架の彼女だし」
「……うん」
「自分が好きな人を好きな子が居たら、どうしてもわかっちゃうんだよね。ヤダよねー。あー女って怖い」
「……七瀬」
「うん?」
「……や、なんでもない」
“強がっておどけなくてもいいから”
言おうとして、やっぱりやめた。
俺が言っていいことじゃない、なんて思った。
七瀬は何も言わなくなった俺に少し笑いかけて、続ける。
「それで、ね?昨日、夏祭りの時に永瑠ちゃんを見て、“この子有架のこと好きなんだな”ってわかっちゃって。そしたら今日、さっき、永瑠ちゃんが泣いて帰ってきたから」
「……うん」
「“どうしたの”って聞いたの。ちょうど私が戻ってきたのと鉢合わせちゃって、気になって。そしたら、永瑠ちゃん、理由も言わずに、泣きながら“ごめんなさい”って言って、部屋に入って行っちゃって」
「……うん」
「なるほどって、なんていうか、これまたわかっちゃったわけですよ」
「……そか」


