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マンションに戻る頃には、夏を作り出す太陽もだいぶ沈んでしまっていて、ゆっくり帰ってきすぎたなとぼんやり思った。
向こうの空が赤く、だんだんと群青色になる夏の夜。
どこかで虫が鳴き、どこかでひぐらしが鳴いている。
……なんでこんな落ち込んでんだろうな、俺。
悲しくなるのも空しくなるのも、俺の役目ではなく、永瑠の方なのに。
永瑠の気持ちに気づけなかったから?
涙を止めてやれなかったから?
追いかけられなかったから?
……どれもこれも、正解であって、そうでない気がする。
例えすべてが正解だったとしても、間違いだったとしても。
どれもが自分のための答えとしか思えない。
結局はそういうヤツで。
「……最低だろ」
人間の性だろうが、なんだろうが。
“最低”だという事実には変わりなくて。
「……何が最低なの?」
俯いた直後、マンションの入り口から聞きなれた声が響いてきて、俺は反射的に顔を上げた。


