永瑠の手を掴んでいた俺の手から力が抜ける。
細い手首が折れそうだったから、なんて。
……イイワケ、だ。
「……ごめんっ、泣くつもりなかったのにっ、眼鏡買ってもらって、ありがとうって言いたかったのにっ、困らせてごめんっ……」
「……永瑠」
「いいっ、もう忘れてくれていいからっ、オレのことは気にしなくていいからっ……」
永瑠は右手を自分の方へと引き寄せると、手の甲で流れる涙を拭った。
その手首が少し赤くなっていて、酷く申し訳なくなった。
けど謝る言葉すら出てこない。
気にしなくていいと言われて、ムリなことは明白なのに。
それを言葉にする声すら、ひとつも喉を通ってはくれなくて。
否、俺は何も出来なかったんだ。
「……ごめんっ有架っ……好きになって、ごめんっ……」
絞り出すような声で、そう言って。
走っていく永瑠の、その小さな背中に声をかけることも。
ましてや追いかけることすら。
俺には何ひとつ、出来なかったんだ。


