まさかドアを開けた瞬間に顔面目掛けて辞書が飛んでくるなんて誰が予想しただろうか。
少なくとも俺は予想していなかった。
せいぜい雑誌くらいだろ、普通
……いや、雑誌も痛いか。
「着替え中だよドア開けんなバカ!」
飛んできた辞書から咄嗟に避けて難を逃れた俺に、次いで投げかけられた言葉はそんなもので。
壁に激突して落下した辞書を見下ろしていた俺は、辞書を投げてきた張本人へと顔を向ける。
「永瑠(ながる)。お前さ、この辞書を受けた人間が俺じゃなかったら、殺人犯になってたと思うけど」
「お前なんか死ねばいいよ」
「2年振りの挨拶がそれかよ」
「ステキだろ」
「そォだな。辞書投げ返したいくらいに」
「死ねよばか。埋まれ。そして死ね」
「2回も死ねるかよバーカ」
着替え中だったらしい永瑠は、胸の前でTシャツを手繰り寄せて、こちらに敵意むき出しの視線を向けている。
行動は女子っぽいけど、表情と言動がまるで女子じゃない。
「ってか、お前はいつまでドア開けてるつもりだよ!」
「はいはい悪かったな。お子様に興味ないからご安心を。んじゃ、俺リビングに居るから」
「帰れよばああああかっ!」