「私たち、既に付き合ってるよね?」

 去年の今頃から。
 私、告白された記憶があるよ?

「うん。だけど、だって言いたかったんだもん……。好きです。これからも僕と一緒にいて下さい」

 そんな可愛く首を傾げられても。
 にっこり笑う翔輝に、架空の耳と尻尾が見える気がする。
 翔輝って、ゴールデンレトリバーに似てるなぁ……なんて、関係ないことで現実逃避を試みる。
 だけど完全に無駄で。
 私いま、絶対に真っ赤だ。改めて言われると恥ずかしすぎる。
 絶句する私に翔輝が続けた。

「あのね。さっき、つい言っちゃったから気付いてると思うけど……ここで告白して付き合い始めると、永遠に結ばれるんだって。ゆうちゃんがそういうの好きじゃないのは解ってるけど、でもやっぱり僕は好きだし……」

 言いながら、だんだん声が小さくなって、俯(うつむ)いていく翔輝。
 反対に私の手を握る力は強くなってくるから、そっと握り返すと、翔輝はまた顔を上げる。

「それにゆうちゃんが何と言おうと、僕とゆうちゃんが出会ったのは運命だって思ってる」

 翔輝は「だから、えっと……ホントはもっと格好良く言うつもりだったんだけど」とかもごもご言いながら、私の手を離して、自分の上着のポケットから、小さな箱を取り出した。

「僕と結婚して下さい」

 箱の中には、銀色の指輪。

 なんで。
 なんで翔輝は、恥ずかしい台詞も簡単に言えちゃうんだろう。

「ねぇ、そんな事を言う為だけに、私をここまで連れてきたの?」

 私の言葉に、翔輝の顔が曇る。
 違うの。そうじゃなくて。あんまりにも翔輝らしくて。
 いつもの私なら、シチュエーションと結果は無関係だから無駄だって言うところなんだけど。ロマンチックな場所じゃなくたって、リビングでも、車の中でも、答えは同じだって言うんだけど。


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