前夜の雨の名残でぬかるんだ地面と、濡れた雑草の茂み。日差しは強く暑く、しかし午前中の気温はまだ低い。蝉(せみ)の声と、大人たちのボソボソとしか聞こえない話し声。どこからか、せせらぎが聞こえていた。

 俺は、田んぼと森の間を抜ける舗装(ほそう)されていない道を、両親を含めた親戚と一緒にゆるゆると歩いていた。何の集まりだったのか、どこへ向かったのかは思い出せないが、その道に沿って、目が覚めるほどに真っ赤な彼岸花が咲いていた。

「其方(そち)は……、一人か?」

 ずっと赤い彼岸花の列に沿って歩いてきたのに、突然にそれは白い群れに変わり、その向こう側に、彼女はいた。
 時代錯誤(さくご)な話し方と、朱(あか)い、煌(きら)びやかな着物姿は今思えば不審だが、田舎の子供とはそういうものかと、当時は全く不思議に思わなかった。

「は……?」

 むしろ一人かと問われた事に引っかかり、慌てて振り返るが誰も居ない。

「やっべ……」

 怒られる! そう思った次の瞬間には、少女のことは忘れて踵(きびす)を返していた。

「其方、我と遊ばぬか」

 走り出そうとしていた脚は、少女の声に引き止められた。

「我も一人で退屈しておったのだ」

 否、とは言わせない、人を従わせる力のある声だった。
 にぃ、と口角を上げた唇が紅(あか)い。

 フラリ、と、俺が向きを変えたのを認めて、少女が背を向けて駆け出す。重そうな着物などモノともしない、軽やかな足取りで。

「其方が鬼じゃ! 我を捕まえてみぃ!」

 ……それから、鬼ごっこ、かくれんぼ、木登り(驚くことに着物のままで!)、果ては2人でままごとまでしたと思う。

 そうして別れ際。

「――其方、我の婿(むこ)になれ」




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