桜の木の下には、死体が埋まっている。
 あの、妖(あや)しい美しさは、人の血を養分にしているから……。

 なんて。
 そんなこと言ったって。

 あの薄桃色の色素に、ヘモグロビンは成り得ないと思うんだけど。
 大体、『妖しい美しさ』なんて主観的過ぎて、お話にもならない。
 ていうか死体遺棄だし。犯罪だよ。日本中の桜の下に死体が埋まってたら大変だよ?

「もぅ。相変わらずゆうちゃんはリアリストだなぁ……」

 私の手首を掴んで前を歩く翔輝(しょうき)が、溜め息をつく。

「あ! じゃあ、これは? 小学校の裏手の丘の上におっきい桜の木があるでしょ? 満開の花の下で告白して付き合えたら、永遠に結ばれる運命なんだって!」

「それってなんか変だよ」

 即答してしまった。

 だって、告白してOK貰ったってことは、両想いだったんでしょう? そりゃ結ばれる(?)でしょ。
 告白に至るまでに色々頑張るんだろうに、そこを“運命”なんて、自分たちの預かり知らぬ所で初めから決まってたみたいな言い方は間違ってる気がする。
 大体“永遠に”って……、命は有限なのに。破綻(はたん)してるし。

「もー! ゆうちゃんがそういう性格なのは知ってるけどさ……」

 言いながら拗(す)ねた様子で口を尖らせる。
 そんな可愛くしても私の考えは変わらないからね? 「変だ」って言っちゃったのは失言だって認めるけど……。

 翔輝は「乙女か!」っていうくらい、ロマンチックな話が好き。“そして王子様とお姫様は、永遠に幸せに暮らしました。”で泣ける人なんて初めて見た。
 一方私はあんまり好きじゃない。“運命”とか“永遠に”とか、努力や能力を無視した言いぐさが納得いかない。


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