「かなり体力も回復してきましたね。」


「そりゃ、もう…。
毎日優秀な薬師が側にいてくれていますから。」

「それはそれは…。」


「それに優秀な見張りもついております。」


私の言葉にくすくすと笑い声をあげる斗庵さん。

重家を妊娠してからずっと定期的に屋敷に私の様子を見に来てくれている。


今では専属のかかりつけの医師になっていた。


「お部屋に籠もりっ放しでは気分も塞いでしまうでしょう。
今日からは以前と同じ様に過ごされては如何ですか?」



待ってましたの斗庵さんの言葉に私は笑顔で応えた。


長かったお籠もり生活。

もちろん優秀な薬師とは椿さんと桔梗さんのことで、優秀な見張りは紅葉さん。


重家を人質にして私を思うようにしてきた3人の事をずっと恨めしく思っていた。


だけど、


「回復が早かったのは紫衣様思いの家臣のお陰ですね。」


斗庵さんの言葉通りなんだなって、今では感謝の気持ちに変わった。


「それでは私はこれで失礼します。」


立ち上がり一礼をしてから部屋の襖に手を掛ける斗庵さん。


だけど斗庵さんが襖を開くより早く自動的に大きく開かれた襖。


両サイドには紅葉さんと桔梗さんが跪き、頭を下げて控えていた。


そして、斗庵さんの荷物をサッと手に取ってお見送りの為に斗庵さんと歩き出す桔梗さんと、


「優秀な見張りねぇ。」

ズカズカと部屋に入ってきて嫌味たっぷりな言葉を掛けてくる紅葉さん。

「感謝してるよ?
今はね…。」


だから失敗した。


ついつい今はとか言っちゃった。


もう普段通り過ごしていいって言われて舞い上がった頭は正直で、


「へぇ~、今はね~!」


紅葉さんの嫌味を増長させるような言葉を言ってしまった。


それに…。


優秀な見張りって…。


聞かれてたんだね。