ポロポロと落ちる涙を拭うことも出来ない私の頬に佐和さんの手が触れて、


「熊本に行こう。
紫衣も連れて行くつもりだったんだけど?」


満足そうに微笑む佐和さん。


「石野ってすげぇSじゃね?」


「ほんと、紫衣を泣かせて嬉しそうにするなんて相当だよね。」


それまで存在を忘れていた嶋田さんと芽衣ちゃんの言葉に私は呆気にとられた。


「4人で行くんだけど?」


ポカンと口を開けたまま呆ける私に佐和さんは言葉を掛けてニッコリと微笑む。


「夏休みの旅行を計画したんだよ。
その為に明日から紫衣は私と一緒に短期のバイトも入ってるからね。」


次々と掛けられる言葉に私の思考はついていけず、返事も出来ないままその日は解散になった。




次の日、旅行の資金作りの為のバイトに芽衣ちゃんに手を引かれて連れてこられたのは小さな倉庫。


「書類の整理の短期バイトだよ。
面接なしで紹介で採用してくれるって聞いて勝手に紫衣の名前も言ってあったんだ。」


倉庫に山積みされた書類のファイルを整理する仕事は人に接するのが苦手な私には好都合な仕事で、


「紫衣にはバッチリな仕事でしょ?」


係の人の説明を聞いた後配属された場所に移動しながら芽衣ちゃんに話しかけられた。


時給は出来高制。


箱に積められたファイルを整理しながら纏めて綴り直す作業で箱がいくつ出来たかで給金が決まると教えられた。


それに配属されたテーブルは二人一組で使い、芽衣ちゃんとの共同作業でいいと言われて、


「こんなに条件のいいバイトはそうそうないんだからね。
頑張って稼ぐよ!」


腕を捲りながら片目を瞑って芽衣ちゃんはニッコリ微笑んだ。