彼を抱きしめたまま、かなりの時間が過ぎた。
三成の体の震えは止まっているけれど何も話さず静かな時間が流れる。
もう何も考えずに明後日までゆっくりと過ごしたい。
そして二人で笑っていたい。
「夕餉の支度が整いました」
静かな部屋に響く朱里さんの声。
「すぐに行きます」
襖の向こう側にいる朱里さんに声を掛けたけれど三成がぎゅっと私にしがみついた。
普段、三成や左近さんが城から早く帰れるには私の希望を叶えてくれるために紅葉さん達3人と左近さんに朱里さん、三成と私とみんな集まって食事を取る。
家族のように近しい人達だからみんなで食事をするのは当然だと話をしてからは、なるべくそうするようにと三成がみんなに提案してくれた。
だから今日みたいな日にみんなが集まるのは当然のことだけど、
「今日は悪いけど部屋で二人で食べたいの。ここへ運んで下さい。」
すぐに行くという返事をすぐに撤回した。
「かしこまりました」
朱里さんはわかっていたのか、何も言わずに了承の返事をして、襖の向こうから気配を消した。
「足音はやっぱり聞こえないね」
忍である朱里さんたちは廊下を歩くときに足音が全くしない。
すこし傷んだ床も私が歩くとぎしりと音が鳴るけれど、朱里さん達は全く音を立てない。
そんなどうでもいい言葉を落として、三成を抱きしめていた腕の力を緩める。
部屋にいることに安堵したのか、さっきのように三成もしがみつくこともなく、すこし私から体を離した。


