「紫衣は三成に勝って欲しくないの?」


「そんなことはないよ。」


「だけど空想したりはしないんだね。」


「願いなの…。」


「え?」


「空想やもしもじゃなく、私にとって関ヶ原の勝利は切実な願いなの。
だって私には関ヶ原は過去であって、だけど未来なの。

私は関ヶ原以前の世界で生きていたの。

だから終わっちゃった過去なのに未来なのよ」


どこにいても願わずにいられないお兄ちゃんの勝利。


苦しそうに歪められたお兄ちゃんの顔は見たくない。


「そうだね。
………そうだったよね。
紫衣にとって関ヶ原の合戦は未来の出来事だったんだよね。
ここにいる私達には過去の出来事なのに…。」


そう、だから空想ではなく願い。


私だけがみんなとは少し感情が違っているのは仕方のないことだけど、


「ちょっぴり寂しい…」

感情のズレを感じなかった訳じゃない。


だけどそれを目の当たりにしてほんの少し寂しく感じた。


俯き言葉を失う芽衣ちゃん。


私は芽衣ちゃんを悲しませたのかな?


正直に話すべきじゃなかったのかも知れない。


暗い表情のまま俯く芽衣ちゃんを見てぎゅっと胸が苦しくなった。


「芽衣ちゃん…」


何か話さなければと思うのに言葉が出てこなくて、変わりに涙が込み上げてくる。


泣いたらもっと芽衣ちゃんを苦しませるのに…。

そう思うと余計に言葉が出てこなくて、私も同じように俯いて顔を隠した。