忙しく働く人々。


「紫衣様、こんな所に来てはいけません。」


ほらね?


絶対に咎められるってわかってた。


ここはまるで戦場。


立ち込める湯気の間からたくさんの人の手が動くのが見えた。


高く積み上げられた膳。

それに、


「とってもいい匂い。」

ニッコリと笑う私の前で腰に手をあて仁王立ち。

「紫衣様!」


掛けられるその声は怒りを含んでいる。


睨みつける瞳を無言のまま真っ直ぐに見据えるとその人は大きく肩を落としてため息を吐き出した。


「はっきりと邪魔だと言われたいのですか?」


掛けられる言葉は厳しくて、だけど私だって曲げられないんだからねとばかりに口を一文字に結んだ。


扉の前で対峙する女2人。


その間に割り込むように現れる人影。


「紫衣様~、またですか~。」


呆れたように私に話しかけるその人は五助さん。

眉をハの字に下げて、その表情は困り果てている。


「五助!何度同じ事を言わせるんだい!」


「ひっ!!」


五助さんに厳しい口調で話しかけるのは私と対峙していた朱里さん。


こんな会話ももう日常になった。


怒られるとわかっていても毎日繰り返す日常。


こうなるとまるで毎日のお決まり行事。


だって譲れないんだもん。


妻として、母として譲れないことってあるでしょ?