偽りの仲、過去への決別

「そうです。あの時の坊ちゃんです。」 洋二のおかげで形勢が逆転した。婦長はわざわざナースステーションから出てきた。「まさかあの時の坊ちゃんがこんなに大きくなられているとは。」 「そんなことはどうでもいいです。カズはどこに行ったんですか。」
洋二は言った。 婦長はとにかく洋二の機嫌を取ろうとしていた。 松山を押しのけ洋二の手を婦長は握った。 「カズ君はついさっき目を覚まして……。洋二君、本当運がいいわ。今日洋二君が病院に来たから、カズ君が目を覚ましたのかもしれないわ。」 松山と結衣は婦長の見えないところで舌を出した。「知ってますよそんな事、それでカズはどこに。」 洋二はにっこり笑った。 婦長は慌てて洋二にカズのいる病棟を教えた。 「坊ちゃん、本当にこの子と友達なんですか。」「そうです。」 婦長は今までの出来事が洋二に知れていたら、先々面倒なことになると予感していた。 今さらながら遅い気もするが、松山にも丁寧に接しようと思っていた。 しかし3人は急いでカズのいる病棟に向かおうとした。
「そういえばうちの父が婦長さんに宜しくと言ってました。」 松山は婦長に向かって言った。 婦長は目が見開いていた。 「何を言っているの。」 婦長はとぼけた。「いやうちの父が婦長さんの息子さんの担当だったと言ってました。」
松山は真剣な表情をしていた。 ナースステーションには、いつしか久保田や他のスタッフが聞き耳をたてていた。 「そうなの。私仕事がいつも忙しくてよく覚えていないのよ!。」 婦長はショックを受けていた。やはり学校で松山先生と会った時、先生は婦長のことを思い出していた。「自分の息子さんの担任の息子さんを叱っていたなんて婦長も大変ねー。」 ナースステーションにいる看護婦達が含み笑いをしていた。 久保田は昨日のことをいつ松山達が話すのか不安でしょうがなかった。 婦長に知れたらどんな仕打ちが待っているかわかったもんではない。 これだけ松山達にいいようにやられている婦長を見ると後で自分がどんな目に合うか、考えるだけでうんざりした。