偽りの仲、過去への決別

「わかっただろう。松山がお前が病院に行くことに反対だって。」 洋二はヒロに向かって言った。 洋二は松山が結衣の意見を取り入れたことは嬉しくもあったが、何か釈然とはしなかった。
「ヒロわかっただろう。カズの体調が戻ってから又見舞いに行くことを考えよう。」 松山はヒロにはっきりとした命令口調であった。「ふざけんなよ、松山。今まで悩んでいたくせに。女に言われて……。」
ヒロは言葉を止めた。これ以上ここで何を言っても無駄だと思った。それに松山と喧嘩しても、得はしないからだ。 「わかったよ。行かないよ。」 ヒロは今日病院に行こうと計画していた。だからこんな所で揉めていても時間の無駄だった。
「じゃあ、松山又。」 ヒロは薄笑いをして松山達の教室を出ていった。「さあー２人とも仲直りして。」 結衣は２人を促した。 松山と洋二はお互いが歩み寄った。 ヒロは教室を出ると、急いで職員室に向かった。 ヒロは今日松山達より先に病院に行かないといけないと考えていた。早くカズに接触し、事件に終止符を打とうと思っていた。 とにかく松山達を足止めするしかなかった。 カズとの接触を先に伸ばすと自分が不利になることはわかっていた。
まだカズが弱っている時が勝負だと確信していた。
カズはベッドに横たわり一息ついていた。昨日からよく隣りの小室に話しかけられ少し疲れていた。 カズのベッドに直接注ぎ込む太陽の光が眩しかったが、なぜかカズは心地良い気分になった。今までの苦しみを浄化してくれるかのように太陽の光はカズ１人の為に存在するかのようだった。
窓の外にはいつもと代わり映えしない風景があった。カズが眠っている間に変わるわけもなかった。何も変わらないことが安心感にもつながる。 いつもそこに変わらない風景がある。時間が止まってくれて、自分が何かに追われても、待っていてくれる安らぎがある。
この町に来てどれくらい経ったのだろう。カズは記憶の糸を手繰り寄せた。 そんなに長く住んでいないのに、なぜか永く住んでいる思いがした。 学校で友達を得て、色々な出来事があった。そういえばまだこの町に来て１年経っていないことに気付いた。