偽りの仲、過去への決別

「やめて、他にも患者さんがいるし。」 結衣の言葉で洋二は松山の体を突き飛ばした。 松山はカズの隣りに入院している30代の男性のベッドに突き飛ばされた反動でぶつかった。 「うわーびっくりした。おいおいここは病室だぞ。喧嘩するんだったら外でやってくれよなあ。」 30代の男性の小室は言った。「すいません。」 松山はすぐに謝った。「気をつけてくれよ。こっちは、病人なんだから。」 小室は松山達の話しを実は聞き入っていた。 松山は慌てて小室のベッドを離れた。
小室はこんなにもめている松山やカズに何か良いアドバイスはないか考えていた。 「今日はもう帰ったほうがいいよ。」 小室は余計な事だと感じたが、他の患者の手前しょうがなく言った。 カズの病室の患者全員が松山達を遠巻きに見ていた。
松山達は自分達のことばかりで周りの存在を忘れていた。 こんなことでは、又あの婦長に睨まれてしまう。「今日はもう帰ろう。」 洋二は松山と結衣を促した。 2人は頷いた。 「カズごめんな。又明日来るから。」
洋二は布団を被ったまま返事をしないカズに言った。 松山は無言のまま病室を出た。 結衣は他の患者全員に頭を下げた。洋二も後に続いた。 カズはどうしようか迷っていた。 松山に真実を語るべきか。真実を語るなら早いほうが良いと思った。
このままでは、本当にヒロをすぐに連れてくるからだ。 ヒロがあの現場にいた真実をヒロに突きつけてもきっと否定することは、カズでも想像できた。 今はまだカズの頭は混乱していた。もう少し時間が欲しかった。
「坊主、いつまで布団を被っているんだ。もう帰ったよ。」 小室はベッドから起きると布団をはがした。「いつまで隠れているんだ。」 カズは目を丸くしていた。小室とはまだ挨拶をしたていどの仲であった。「いやー別に。」
カズは小室に何を話していいかわからずにいた。 小室はなぜか笑顔であった。 小室は人なっこい性格でどちらかと言えばお節介であった。 日頃は自動車会社で営業をしていた。