偽りの仲、過去への決別

結衣は松山を見直していた。なぜならどちらかというと、ただいつもニコニコしているだけの、中身のない人間だと思っていた。 人が良いのと、優柔不断は似ているけどまったく違う。 結衣は松山は後者の部類だと思っていた。
しかし孤立していたカズに手を差し伸べた時は、クラスで誰もできないことを最初に実行した。 そして、カズの見舞いもクラスで誰もやらなかったことを１人でやった。 結衣は松山を見直した。なぜそこまでカズの事で必死になれるのか。 だからカズが席の隣りに来た時、その秘密を知りたくて、カズに話しかけた。 カズのおかげで結衣は学校生活が楽しくなった。 カズは自分や松山、洋二をいつの間にか心を癒やしてくれていた。
カズ自身が出すオーラが心を和ませ、自分に正直に生きる大切さを自分達の心に植え付けてくれた。 松山はある決意をした。「このままではいけないと思っているよ。だから今度ヒロを連れて来ていいかなあ。」
洋二は絶句した。この期に及んでまだそんなことを言っている松山が本当にわからなくなった。「俺もうお前についていけないよ。よく考えてみろよ。カズが……。」 洋二は話すのを途中で止めた。これ以上松山に何を言っても駄目だと感じたからだ。
「俺はあまりあいつとは今は会いたくないなあ。」 カズは松山を見た。松山の消沈した顔が視界に飛び込んで来た。 カズは松山の真意がわからなかった。洋二も結衣も呆れて黙り込んでしまっていた。
そんなにヒロのことが大切なのかと考えるだけで、嫉妬心がにわかにカズの心に広がり始めていた。 段々カズは苛立ってきた。体調不良できちんとした判断力が戻るにはまだ時間が必要であった。
「そんなにヒロのことが大切なら、病院に見舞いに来るより、さっさと帰ってヒロと話し合いでもしろよ。」 カズはわかっていた。こんなこと自分の本意ではないことが。 カズは布団を被ってしまった。
洋二と結衣はただ布団を被ってしまったカズを見つめているしかなかった。「カズごめん。でも俺本当に……。」 「松山いい加減にしろよ。」 松山の言葉を遮り胸ぐらを洋二は締め上げた。 松山は苦しそうな表情を浮かばせたが、何も抵抗しなかった。