偽りの仲、過去への決別

そのこともすべてカズに話した。 松山は何も言わずただ黙っていた。 松山はカズに申し訳ない思いで一杯だった。自分がヒロと仲良しになったのに、何も助けることもできずにいた。なぜヒロを止めることができなかったのだろうか。 信じている人間でも、すべてを知ることは難しい。 何もかもがわかるなんてそれこそその人間の奢りでしかない。 知らない同士だからこそ、時間をかけお互いの気持ちを理解するのではないだろうか。 違う環境で育ち、考え方も、能力も違う人間がそう安々理解できるわけがない。 だからこそ始めから人にはそれぞれ思想も目的意識も違うことを知るべきだ。 自分の持っているイメージを相手に照らし合わせ、いかに違うかを知ることが一番重要である。
意識の差別化を計るのではなく、ある程度の認識と同調する意識を持てば、その人間に少しずつでも理解の輪が縮まる。それによって心のゆとりが生まれてくる。 人を理解することは、結局自分を信じるしかないからだ。
相手を認めることは、自分のリスクをかんがえず行動できることだ。 だからこそ裏切られた時のダメージは自分に対しての絶望感に繋がってしまう。
カズは松山が悲しんでいるのがわかった。一時期であれ、ヒロと松山は仲が良かった。自分が松山と喧嘩してからは、いつも一緒にいた。 だからカズ自身の怒りがなぜかそんなに目立たなくなってしまった。 カズは松山に遠慮をしてしまっていた。
しかし洋二はヒロを松山の為に許すべきではないと思っていた。そんな甘い考えはきっと後で後悔すると信じていた。 後悔しないように教えてくれたのは、カズ自身であった。 こんな思いやりは本当の友達関係じゃないと洋二は思っていた。
「松山がはっきりしないから、カズが迷っているんだぞ。しっかりしろよ。」 洋二の声が病室全体に響き渡った。 カズは驚いた。いつこんなに洋二が松山に意見するようになったのか。自分が入院している間に一体なにがあったのか。
「私も洋二君の意見に賛成よ。確かに松山君は、カズ君のために何を言われようが見舞いを止めなかったことは凄いけど、ヒロ君の事に関しては私も疑問に思うわ。」