奇蹟のはじまり

『…さん、智さん』

僕を呼ぶ声ではっとしま

した。

それは、随分昔に聞いた

声です。

僕は隣にいるかずを振り

返りました。

だけど、隣にいるはずの

かずがいません。辺りを

見回してもさっきまで一

緒にいたはずなのにどこ

にもいないのです。

驚いたことに、いつの間

にかあたりには霧がうっ

すらと立ち込めていまし

た。

『智さん、振り返って下

さい。久しぶりに顔を見

せてください』

後ろから懐かしい声がな

おも僕の名前を呼んでい

ます。

翔くんの話とは少し違い

ます。

僕は懐かしい声に思わず

振り返ろうとしました。

『駄目だよ!』