奇蹟のはじまり

『多分気のせいじゃない

と思いますよ。俺も何と

なくだけど、前に来たと

きと違う気がします』

二人でまた空を仰ぎまし

た。

「どこに行っちゃったん

だろう」

呟いた言葉は青く冷たい

冬の空に吸い込まれて、

もの哀しいような淋しい

ような気持ちになりまし

た。

いつもここにくれば、姿

は見えないけど確かに居

ると感じました。温かく

て思わず話しかけたくな

ったり、疲れた時はもた

れかかっているだけでい

い匂いが鼻孔をかすめた

りもしました。

だけど、今この木は抜け

殻になっています。

『しっ!』