「いいえ、そんなには。それに二年目ともなれば慣れているから平気よ。」
「慣れてるって?」
「姫村君のマイペースさと鈍感さに。」
彼女の笑顔は怒っているのか楽しんでいるのか読めなくて怖い。
「マイペースなのは自覚してるけど、鈍感ではないつもりなんだけどな。そんなに鈍いかな。」
「ええ、特に視線とか声には反応しないわよね。環境でそう育ったんでしょうけど。」
「ああ、挨拶とか素通りしちゃうときがあるって言われるな。気をつけてるんだけど、なかなか直らなくて。」
杉下はにやにやとこちらを見ている。なんだか居心地が悪い。
「それで、なにか用事かな。」
「ええ、進路調査書を提出していないのが姫村君だけなの。眉村先生が、今日出すか、決まっていないなら相談に来るようにっておっしゃっていたわ。」
進路調査書なんてもらったかな。
僕の疑問符を拾ったのか、杉下が説明してくれる。
「始業式の日のホームルームで配られたプリント、持ってないかしら。先週末が締め切りだったの。」
机の中を探ってみると、それらしき紙が出てきた。独創的に折れ曲がっている。
「あ、これだ。」
広げてみると、進路調査書の文字。