屋上の鍵は机の中に


ひとめぼれ。

恋。

関わりの少ない単語に少し動揺してしまった。

僕が、彼女に、恋をした。

頭の中でゆっくり反芻してみたところで何も変わらなかった。

「すれ違った瞬間、恋の第六感が宮藤かんなに反応した。君の行動を見れば、それはもはや疑いようのない事実!好きになってしまったら、想わずにはいられない。だから君は思い出すのだ!もう一度会いたい、もっと彼女のことが知りたい、という心理が働くからだ!」

陽光の演説はやけに説得力をもって響いた。

けれど、自分が恋をしているなんて実感が湧かない。

好き、恋、恋愛感情、愛?そもそも、それってなんなのか。

今までも女の子と付き合ったことはあったけれど、こんなに悩ましいものではなかった。

自分の世界は平穏に保てていたんだ。

納得しない僕の様子を見て、陽光が何か閃いたように声をあげた。

「もしかして、ひーちゃんてば、も、もしかして…」

後の言葉を待ってぼんやりとしている僕の肩を右手で力強く掴み、口許を覆っている左手を外した。

ニヤニヤしている。

「初恋?」

「あ、」

間抜けな僕の声が宙に浮かんだ。