とぼとぼと校舎の方へ歩いていく浩平。

その心は少し乱れていた。
いわゆる、「春の憂鬱」だろう。
春になると誰しもが憂鬱に浸ってしまうことがあるはずだ。

うーん、私なんか春大っ嫌いだしね。
だって行事多いじゃん。
超疲れる。
私疲れるのも嫌いなの。

お、浩平の後ろに誰か女性が!
浩平は気付いていない様で前をただ歩いている。

と、その女性は徐々に浩平に近づき浩平の背中を軽く押した。

「速水先生!おはようございます」

浩平は背後の気配に少し驚いて、女性の方を振り返った。

「びっくりした…三上先生………。おはようございます」

「大丈夫ですか?ぼーっとされてましたよ」
浩平が驚いてくれたので、三上先生と呼ばれたその女性は嬉しそうに笑った。

彼女は、三上 早希(みかみ さき)。二十七歳。
浩平と同じくこの学校の教師。
そして受け持ちの学年も二年生と、浩平と同じ。
教科は英語。
見た目は、二十代だけあってピッチピチ。
流行に敏感だろうことがすぐに分かる。
綺麗、って言うよりまだ可愛いって感じだなー。


「そうですか?」
ははは、と苦笑いしながら訊く浩平。

「そうですよ。無理はいけませんわ」
それにうふふ、と口元を押さえて上品に笑う三上先生。

………多分、三上先生は浩平が好きなんだろうなー。
顔が恋する乙女だもの。
でも浩平はその気持ちに全く気付いてないみたい………。

そりゃ浩平には美奈子しかいないからねぇ。
三上先生に勝ち目はなさそうだけどな。


「今日の朝の職員会議って、何の話しでしょうか?」

「えーっと、多分体育祭についてですよ」

そんなことを並んで話しながら、二人は一緒に職員玄関へと向かって行った。