クライシス・ゾーン~翡翠の悪魔~

 しようとしたという事は、していないという事だ。けれど、視界に入ったあいつの手には軽い切り傷程度の跡しか見受けられなかった。

 毒が利かないのか? いや、そんな生やさしいものではないんじゃないのか。治癒魔法もかけていないのに、この短い間に傷跡すらも消えてしまうなんておかしい。

「不死身だとでもいうのか」

 つぶやいた言葉に、はたと気がつき傷の一つも見あたらなかった体を思い起こす。

 俺はいま、自分で言ったことに違和感もなくまるで、それが当然であるかのように無意識に受け止めていた。

 信じられないことだが、まさか──本当にそうなのか?

「どうしてさっき、怒ってたの?」

「え?」

 ふいに問われて我に返る。

「ベリルがあたしの手を握ってたとき」

「そ、それは──」

「それは?」

 期待する瞳がリュートを見上げる。これはまずい。

「あいつが殴られたのかと思った。お前の平手は、モンスターも倒せ──」

「失礼ね!」

 すかさずティリスのビンタが炸裂した。