クライシス・ゾーン~翡翠の悪魔~

「まあそれはそうと。さっそく怪しいのがお目見えだ」

 リュートはハッとして眼前に広がる砂地を見た。

 それは唐突に現れた、かなり広範囲な砂漠だ。迂回するよりも突っ切る方が近道なのは明らかだが──立ち止まって眺めていると、砂がおかしな動きをしている。

 一体、何がいるのか。

「何をするつもりだ」

 リュートは、カルクカンから降りて荷物を降ろしているベリルに眉を寄せた。

 カルクカンの尻を軽く叩き、砂地に二十メートルほど進ませたところでベリルは指笛を鳴らす。

 その合図に、カルクカンがベリルの元へ走ったそのとき──

 低く、くぐもった咆哮と共に水面にジャンプする鯨の如く、大きな何かが飛び出してきた。

「あれ、なに?」

「さあな……」

 ティリスもリュートも、目を丸くしてその巨体を前に唖然とした。

 巨大な大木を思わせる胴体に手足はなく、先端はストローのように開いた口と、そこには鋭い歯がびっしりと並んでいた。