「ベリル様は、その事を知ってらしたんでしょうか。そんなはずありませんよね」

 ティリスは語り終えて戻っていくレキナの後ろ姿を見つめながら、未だ小刻みに震える自分の手を握りしめた。

 この震えはシャズネスの魔女に? それとも、ベリルに──?

 あんな人は初めてだ。あたしは、ベリルの何を恐れているのだろう。それすらも解らない。

 いつも優しかったから、彼が戦士だということを忘れていた。闘うときも同じであるはずはないのに、まるで別人のように思えた。

「無事に、天に還っただろうか」

 リュートの言葉にハッとする。

「そうか。還ったよね」

 あの人は、最後に笑っていた。嬉しそうに、愛する人に会ったみたいな顔だった。ベリルは彼女に安らぎを与えたんだ。

 躊躇いなく、それが出来る人なんだ。やっぱり、優しい人なんだ。あたしは何を怖がっていたんだろう。

 安堵したティリスの表情をリュートは黙って見つめていた──




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