「ウレシイ」

 影は涙を流してベリルを抱きしめたあと、無数の光の粒となり舞い散りながら消えていった。

 消えゆく輝きを追うように見上げるベリルを、ティリスは声もなく見入る。

 再びの暗闇にベリルは小さく溜息を吐き、広場に足を向けてふと、手に持っていたカップが無い事に気づき、辺りを見回して草の上に転がるそれを拾い上げた。

 ベリルが横切る瞬間、目が合ったティリスは体を強ばらせ、何も言えずに遠ざかる背中を見送る。

「……今のは?」

 レキナに問いかけたティリスの声は無意識に震えていた。

「シャズネスの魔女です。人の魂がモンスターになったものだと云われています」

 愛する者が死に、その苦しみに耐えきれず自ら死を求めたが、天に昇ることも出来ずに彷徨い続け、愛しい人を探し続け──やがて、闇の中でしか生きられないモンスターに姿を変えていく。

「とても悲しいモンスターです」

 ずっと泣き続けて、こんな大陸にまで来ても彷徨(さまよ)い歩いているんですから。