「なんだ貴様!?」

 突然、現れた青年にセルナクスは声を張り上げる。

 見れば、勇者の片割れだ。一体、どうやってここまで潜り込んできたのかと顔をしかめ、その後ろにいる人間に見覚えがある事でマノサクスを軽く睨みつけた。

「マノ! お前の仕業か」

「えー……いや~。どうかな」

「リュート」

 この数日、顔を見ることすら許されず、どうしているのかと不安で仕方がなかったティリスは、ようやく会えた喜びに笑みを浮かべた。

「捕らえろ」

 セルナクスは部下に命令し、ティリスの腕を掴んで引き寄せる。

 それがリュートの怒りを爆発させた──

「まずい」

「え、なに?」

 ベリルは口の中で舌打ちし、マノサクスに駆け寄ってしゃがむように促した。

 ──瞬く間に吹き荒れた風が紙切れだけでなく、椅子や燭台までをも宙に浮かせ、天井に吊されたシャンデリアの飾りが今にも落下しそうなほど激しく音を立てている。