「でかいな」

 淡く輝く雫型の岩にベリルは目を細めた。

「これが要石だよ」

 高さ十メートルほどの巨石は広い空間の中心に、なんの支えもなく浮いている。

 岩の状態を確認するためなのか、要石に最も近づく部分は踊り場となっており、間近で見る事が出来た。

 よく見ると、斜めに薄く長い亀裂が走っていた。なるほど、このままでは割れてしまう可能性がありそうだ。

「こんな石のためにティリスを」

 忌々(いまいま)しげに睨みつける。岩は金属を帯びているのか、微かにツヤが見られた。

「岩に怒っても仕方がない」

 ベリルはリュートをなだめて上階を目指した。

 荷物をマノサクスに預け、重厚な扉をゆっくりと開き様子を窺う。そして人が通れる程度の隙間をあけてマノサクスを残し、眼前に見える色とりどりの花が飾られた大きな花瓶に素早く身を隠した。

 マノサクスは図体も大きく翼が目立つため、ベリルの指示があるまで要石の部屋で待機する。

 真っ直ぐに伸びた通路の先に見える扉からして、そこは特別な部屋なのだと思われる。廊下がぐるりと部屋を囲い、それぞれ四方に出入り口があるようだ。