クライシス・ゾーン~翡翠の悪魔~

「鍵を持っていない?」

 ベリルは眉間のしわを深く刻んだ。

「ここの鍵を持っているのは、警備所長だけだ」

 縛り上げられた男はベリルを見上げて怖々と説明する。

 警備所長は鍵を開けるときだけ部下に渡したり直接、自分が開けに来る事がある程度で滅多にここには近づかない。

 確かに最良ともいえる安全策だ。とはいえ、それを実施している彼らに感心している場合ではない。

 ベリルは仕方がないと溜息を吐き出し、男の口を縛って捜索を続けた。

「なあ」

 牢を確認しながら歩くベリルの背中に呼びかける。

「なんだ」

「さっきの奴に訊けば良かったんじゃないの?」

「こちらの情報を相手に伝える必要がどこにある」

 立ち止まる事なくマノサクスを一瞥し、顔をしかめて答えた。

「へ?」

「対象の口外は危険なだけだ」

「あ、そういうことね」

 言われてみれば確かにそうか。

 侵入した場所が場所なだけに、誰かを救出するためなのは明らかだけど、その誰かを知られると女の子の方がやばくなる可能性はあるよね。

 なんか、熟練の戦士みたいな勇者だなあ。ベリルの職業を知らないマノサクスは呑気にそんな事を考えていた。