クライシス・ゾーン~翡翠の悪魔~

「なんだお前たち!?」

 見回りをしていた一人が二人を見つけて剣を構える。ベリルはそれに、立ち止まる事なく低い体勢で看守に向かって疾駆(しっく)した。

 マノサクスも看守も思わぬ行動に驚くが、さらにベリルは剣を鞘ごと抜いて床を滑らせるように強く投げつける。

 男はそれを避ける暇もなく足を取られてすっころび、気がつけば首にナイフを突きつけられていた。

「う……」

 男はベリルの整った面持ちと鋭い眼差しとが相まって、見惚れるやら怯えるやらで喉を詰まらせる。

「抵抗はするな」

 言うまでもなく、男の戦意はすでに喪失している。

「やっぱ、すげえ」

 マノサクスはベリルの鮮烈な闘い振りに溜息を吐く。

 小柄な体格を活かしているとはいえ、ここまで素早い行動には驚嘆(きょうたん)するしかない。無駄が無く優美でさえある。

 これだけ強いなら、乗り込む勇気があるのは当然かと納得した。