──リュートは、目の前の黒い鉄格子を苦々しく見つめる。
レンガと漆喰で固められた壁の室内は寒々とした空気をまとい、外界から隔離された空間に顔を歪めた。
無意識に突いて出た舌打ちは、過去の記憶を呼び覚ました己へのものなのかは解らない。
どうにかして出られないものかと何度も魔族化を試みるもそれは敵わず、格子に貼り付けられている文様のせいだと悔しげに拳を握りしめた。
文様の周囲には鉄製の細かな透かしが施されており、手を伸ばしても届きそうにない。
「ティリス」
無事でいるだろうか。俺としたことが、なんたる不覚だ。せめて、ティリスだけでも逃がしてやれなかったのか。
ここは空に浮かぶ大陸だと言っていた。あいつでも助けに来る事は出来ないだろう。
リュートはその瞬間、自分の考えに酷く驚いた。
俺は、何を期待している。助けになど来る訳がない。なのに、心のどこかではまだそれを意識している。
それにリュートは余計に腹が立った。