成功したのは自分だけと言っていた言葉を思い出す。生命を造る事の失敗──よくは解らないけれど、ベリルは沢山の失われた命を一身に背負っているのではないだろうか。
そう思うと胸が苦しくなった。
「まだ存在している可能性があるのだとすれば体勢を立て直したい」
「なるほど」
リュートは説明に納得し小さく唸る。
これで何もなければそれでいい。問題は、何かあったときに対処出来ないことだ。防衛とは、そういうものなのだから。
「ボナパスの出所も気に掛かる」
「早く戻りましょう!」
レキナはベリルの言葉に半ば食い気味に応えて荷馬車に飛び乗る。
「寝ないのか」
私は睡眠を取る必要はないが。
「そんな暇なんてありませんよ!」
それにラトナとシャノフも急いで続き、一同はその場をあとにして急ぎ集落に戻る事にした。
ボナパスを倒したはずなのに心は晴れない。疑問の全てを解決しなければ、この問題は終わらないのかもしれない。
果たして、それは敵うのだろうか。
「風が──鳴いている」
激しく回る車輪の音が響くなか、耳に届く風の音にリュートは目を眇めた。
心の奥底にくすぶるモヤは何なのか、嫌な予感がしてならない。それらを振り切るようにベリルたちはカルクカンの足を速めた。
†††
-----
瞋恚(しんい):1 怒ること。いきどおること。「―に燃える」
1 仏語。三毒・十悪の一。自分の心に逆らうものを怒り恨むこと。