左を向いているボナパスは警戒することもなく、辺りの匂いを嗅いでいる。今いる位置では頭が木に隠れ、こめかみを狙うにはやや無理があった。

 確実に倒したいが、ここで移動するとチャンスを逃してしまう可能性がある。風もなく警戒していない今が好機だ。あれだけのデカブツなら外すことはない。

 ベリルは心臓があると思われる箇所に狙いを定め、唇をひと舐めして引鉄を絞った──大きな破裂音が響き渡り、銃弾はすぐさまボナパスの胸にまばゆい光を放ちながらめり込む。

「当たった!」

 ラトナは思わず声を上げる。

 反響と共にボナパスの叫びが奏でられ、燃えるようなオレンジの瞳は痛みを与えた者を探し出しベリルを睨みつけた。

 大きく吠え、猛烈な勢いで迫るボナパスの左肩と右前足に二発を当てるも、その速度は衰えない。赤い魔獣は駆け寄るリュートにはまるで目を向けずベリルめがけて突進した。

 間一髪でボナパスの牙を避け、リュートとは反対方向に駆ける。