大きな脅威の前に生きる物は全て逃げ出したのだろうか。生き物の声だけでなく気配すらも無い寒々しい風景は時折、聞こえる微かな風の音をも異質なものであるかのように感じさせた。
ディリスはふと、左の遠方に何かを見つける。
「ベリル」
呼ばれて彼女が指差す方に視線を送る。リュートもそれを確認し目を眇めた。
遠目からでも解る赤黒い巨体──レキナたち三人は震え上がり互いに身を寄せている。彼らの反応から見て、紛れもなくあれがボナパスだ。
得体の知れない霊気をまとい、悪意を放っている。あれを生物と呼ぶには、いささか無理があるようにベリルには思われた。
「リュートは右へ。ティリスは距離を取る」
指示をして静かにAS50を地面に降ろし二脚で位置の調整を行う。
ボナパスとの距離は七百メートルほどと、AS50の威力を発揮するには充分だ。ベリルはうつ伏せになってスコープを覗き込み、その赤い体を捉える。