「軽く学んだことはあるのだがね」

 さすがに気付くかと感心し口元に笑みを浮かべた。

 日常的に慣れ親しんでいる者と同じラインに並ぶには時間がかかる。何より、彼女の訓練の相手がリュートなら尚更だ。

「もしかして。剣よりナイフの方が闘い易いのか」

 本来、リーチのある武器を相手に対してナイフは不利だ。

 なのに、こいつはナイフを手にした途端、水を得た魚のように瞬時にしてティリスとの間合いを一気に詰めて懐に入り込んだ。

 剣を手にしていたときと明らかに動きが違う。

「これを機に慣れるのも良いだろう」

 いまいる世界の主流が剣なら、向かってくる者の手にはそれが握られている。ボナパスだけが相手とは限らない。

 ナイフだけで太刀打ちできるという保証はない。無論、それでも負けるつもりはないが。

「さて。出発しようか」

「ベリル様。なんだか。給仕係みたいになってませんか」

 シャノフたちを手伝うベリルにレキナがぽつりと発した。

「それも良い」

 いや、ダメですって……。ベリル様には、呼び出した理由の方の仕事をして頂かないととレキナは大きく肩を落とした。