クライシス・ゾーン~翡翠の悪魔~

「礼と言ってはなんだが、パンケーキでも作ろう」

「ホント!?」

「生クリームは我慢してもらいたいがね」

 生憎、ヤギはいない。

「ありがとう!」

 ベリルはティリスの笑顔に安心してすぐ、しまったと後悔した。気付けば、リュートがちゃっかりこちらを見ているではないか。

 この調子で私が信用される日は来るのだろうか。

 リュートの元へ駆けていくティリスの後ろ姿を見送りながら、ベリルはリュートについて考察した。

 彼は風を操るようだが、万能という訳でもないのかもしれない。魔族化しなければ──と念頭に置いた言葉には、まだ何かある。

 おそらくそれは、何かしらの弱みである可能性が高い。知られれば不利になるものならば、決して明かそうとはしないたろう。

 そうして一行は暗くなるまで馬を進め、ベリルは約束通りティリスにパンケーキを焼いた。

 持ってきていた蜂蜜がここで役に立つ。