一体何処へ消えたのか。
階段を上がる途中ではぐれたか?
、、、イヤ。
違う。
優秀と言われる天宮だ。
はぐれる訳が無い、まして消えるなど、、、。
きっと天宮には何か作戦がある筈だ。
そうでなければ伊井田に何も言わずに姿を消す筈が無い。

伊井田は扉の前で天宮が来るのを待った。
だが、一向に来る気配が無い。
仕方なく伊井田は1人で壕越匡哉の部屋に入る事にした。
再びL字型の取っ手に手をかける。
今度はそれを下に下ろし、扉を押した。

まず目に飛び込んで来たのは驚くべき光景だった。

部屋は薄暗く、窓の外からライトの光が射している。
そんな中、床に倒れている黒い人影。
、、、、壕越匡哉だ。
大の字で仰向けになって倒れている。
そして彼の左胸部分は肉が抉れて、血がドクドクと溢れ出ている。
その傍らに立つもう一つの黒い影、、、。

窓からの光でシルエット状になっているが女だと判った。
その女の左手にはドック、ドックと弱々しく動く塊が握られていた。
伊井田は瞬時にそれが何なのか理解した。
目の前で倒れている壕越匡哉の心臓だ。
恐怖で伊井田は尻餅をついた。
と同時に強烈な吐き気に襲われた。