天宮は徳井の後に続く。
西野課長と伊井田は館長の大蔵と話している。

「どんな感じ?」

天宮はビーナスの周りで仕事をしている杉本に話しかけた。

「大理石のビーナスには傷一つ無しにブルージルコンだけが盗まれているんだ」

「おまけに指紋も一つも無し」

キッパリ言い切ったのは徳井だった。

「手懸かり無しか」

天宮は腕を組んで口をへの字にして黙り込んだ。

「天宮さん」

その声のする方に振り向くと、伊井田が走ってやって来た。

「詳しい事を大蔵さんが話してくれたところ、盗まれたのは美術館のライトアップが始まった直後だったそうです」

「こんなに人が居るのにどうやって盗んだっていうの!?」

「この美術館のライトアップが始まると、外に出て見物するみたいですよ」

「ライトアップ直後は犯人にとって都合がいいのね。でも防犯カメラに、、、」

「黒猫によってカメラの向きが変えられていて、ビーナスは死角になっていたんです」

「っていうか昨日でしょ!?今日は星すら見えない曇り空なのに」

割り込んで来たのは杉本だった。

「外に出てみましょう。何か解るかもしれない」