「四条さん!」

目の前で、そのくりくりの瞳をしっかりとあたしに向けながら、僚右君がにっこりと微笑む。

瞳にあたしが映ってる。


「ん、行こう?」

あたしもにっこりと微笑み返して、僚右君に並んだ。


やっぱり僚右君は人気助教授なのか、大学の前で親しげに話すあたしたちは、注目の的だった。

だけど気にする様子も全くなく、僚右君は笑う。


本当に、渚とは大違いだ。


優しい瞳も、笑顔も、全部渚にはなかった物。

世間一般からみたらよっぽどこっちの方がいいって言われるのに、なんでかあたしはあんなのを5年も追いかけていた。


冷たくて、こっちを見もしなくて、銀色の瞳に銀色の髪。

声まで冷たいまま、“仁那”って呼ぶんだ。


「どこに行きたい?」

「え、あ…どこでもいいよ」

視界に入り込んでくる僚右君に、ハッとして笑顔を作った。