薄暗くなる時間。
あたしは家に帰る。

6月の6時30分

あたしの一番好きなとき。

冷たくもなく
暖かくもない

灰色の煙のような雲には膨大な水分が含まれている

水の塊

溶けたバターみたいに平べったいそんな雲の
真下で呼吸し生き続けるということは
幸せなのではないか?

最近あたしはそう思うようになった。

あたし達は所詮生かされているのだ、と感じる。

生きているのではなく

生かされているのだ。

この雲の下、
この街の中、
このアスファルトの上で。

生かされているのだ。



マンションは恵比寿にある。

五反田からのんびり歩いて帰る。
線路沿いに目黒までの坂さえ登りきり
街の景色を眺めながらブラブラしているうちに
部屋に辿り着く。
オートロックの803号。
隣の喘ぎ声さえなければ快適。
8畳のスペースにはパソコンとベッドしか置かれてない。
これを殺風景と呼ぶのなら
あたしは常に殺風景な暮らしをしてきた。

ワンピースを脱ぎ捨て下着だけになる。
財布から今日の稼ぎを出し
冷蔵庫にマグネットで貼りつける。
冷蔵庫には数え切れないほどのマグネットが貼られ
数え切れないほどの札が貼りついている。
もう、冷蔵庫の色、アイボリーはほとんど見えない。
泥棒が見たらきっと驚く。

あたしはコーラを取り出し1・5リットルボトルから
直接口をつけて飲んだ。

心地よい刺激がノドを突き刺す。


突き刺す。


炭酸が胃の中でひろがるのが判った。

外はだいぶ暗くなってきた。
下着のままベランダに出てあくびをした。
サイレンが遠くで鳴っている。
あたしを迎えにくるサイレンに聴こえた。