朝5時に目覚めた。

空気はひんやり冷たい。
あたしは無人のフロントを出てタイパの街を歩いた。
カジノと質屋の看板が目立つ。
朝という記号に不釣合いな夜の看板だ。

小高い丘があった。

あたしはその頂上目指して真っすぐ歩いた。

坂道は得意。

五反田から目黒へ続く坂を毎回歩いている。

慣れたものだ。

途中、誰ひとりすれ違うことはなかった。

ひたすら歩く。

歩く歩く。

空気中の水分濃度がかなり高い。

舌をペロリと出すと露骨な「水」の味がする。

頂上は簡単な展望台になっていた。
タイパ島からのびる動脈のような太い橋はマカオ本島に繋がっている。
無数のタクシーが行き来している。

緑が多い。
その緑の中からいかにもコンクリートといった感じの高層マンションが幾本も建ち並んでいた。
まるで、この大地から突き出た骨のように見える。
あたしは展望台からマカオ本島に向かって叫んだ。

喉が切れるほど

内臓を吐き出すほど

自分が自分でなくなるほど

叫んだ。

本当にそれは無意味な行為だった。
でも、あたしは叫んだ。
叫んだ。
叫んだ。



そして少しだけ泣いた。