あたしは知らない街にいる。
裸。
でも、道行く人々は、そんなあたしを気にもとめない。
交番を探した。
一番近くにあるSM倶楽部の道を聞くためだ。

なんだそりゃ…

目覚めたあたしは汗で濡れていた。
シーツも髪も汗でぐっしょり。

マオから貰ったマリワナを吸い
冷蔵庫に貼り付けていた札を全部集めた。

125万円。

あたしはそのうち30万ほどを財布に入れて外に出た。
青山でリモワのジュラルミン旅行鞄を10万で買い
代理店で香港までのチケットを買った。
そしてマカオのホテルを予約した。

逃亡

あたしの中でそんな言葉が踊っている。
何から逃げるのか判らない。
でも、あたしは遠くへ行かねばならない。
まるでそれが本能であるかのようにそう感じた。
こんなに行動的な自分に驚いている。

「はい、ありがとうございます、クラブeでございます」
牧原の低い声。
「あたしです」
「どうした? 今日は休みだろ?」
「しばらく休暇を…」

牧原は沈黙する。
あたしの真意を探っているかのようだ。
でも、そんな真意なんて見つからないはずだ。
そこには何もないのだから。

「何かあったのか?」
「いえ、旅行にでも行こうかと」
「いいことだ。違う空気をたくさん吸っておいで」
「ありがと」
「どこに行くんだ?」
「マカオ」

カジノでもする気か?

牧原はそう言って笑った。
「少し軍資金でも渡そうか?」

あたしはそれを断り電話を切った。

1時間でジュラルミンケースはいっぱいになった。
最後に残ったわずかな隙間に
ザリガニちゃんの腕が入ったピルケースを入れた。

出発は明日だ。